第26回 錬金術の叙階定式書 第5章(9)

さて、その性質について漸く汝に語る段になった。我らの術の過程に於いて現れる、さまざまな色彩の出で立ち現れる原因を汝に説こう。およそあらゆる物体の白さは透明度の結実である。黒さは、物体の密度が構成素を厚くして透明度を遮蔽する際にあらわれる。これは「地」の物質が燃焼されたときに傾向を強めるのであるが、とくに熱が構成素(アトム)のかなりの固さを引き起こすときである。このような密度と暗度と、そして、曇なき清浄さをば混合させ、我々はあらゆる媒介色を実現するのである。いずれも澄んだ透明な物体は「風」と「水」の物質から発生し、これは透明度を損なうことのない浄化された「地」に凝固するものである。そのような透明な澄んだ物体にいかなる特別な色の気味をも見出さなければ、それは結集された「冷」の結実であると確信してかまわない。これは、たとえば水晶や緑柱石(ベリル)などの組成物のようにそれと識別されるものである。水晶は気体状の水であって、澄み、透明かつ清らかである。しかし水性の元素が優勢なところでは暗度が増してより不明瞭となり、緑柱石(ベリル)や氷のごときものになる。物質が本質的に「乾」であればそれは密集して堅くそして不明瞭であり、金剛石(ダイヤモンド)や同類の自然物がそれである。澄んだ物質に光があたると、マグネシアにみられるような煌きが生じる。こうした物体を組成するに預かって力あるのは、熱がつくりだす水蒸気である。このようなことが透明度という色の極をつくりだしているのである。中間色についていえば、たとえば紅玉(ルビー)は、澄んだ物体に存する精妙な煙霧に起因する物体であり、そこに光と輝きが満ちているのである。その輝きの多寡は光の量による。こうした光彩に於いて紅玉(ルビー)に次ぐのは紫水晶アメジスト)であるが、暗度は増して透明度は減少する。玉随(カルケドニ)もまた光輝ある物質だがこれは緑柱石(ベリル)に次ぐ。緑、あるいは翠玉(エメラルド)の色は、清浄なる「水」から形成され、熱せられた「地」の物質と混合し、「地」の透明度がつよいほど、翠玉(エメラルド)の輝く緑色はより顕著になる。黄色は「水」と「地」から発生し、黒い蒸気の暗度による「風」の明瞭度を持ち合わせている。灰色、あるいは鉛の色は「水」あるいは「地」の元素の組み合わせの結果であり、そこでは構成素(アトム)が冷たく密集して、とりわけ古い鉛にみられるように明暗度がつよい。これは人間でいえば、死の一歩手前の状態でもあり「蒼白の」と形容され、嫉妬ぶかい気質にも見受けられる。これは自然色のみならず心臓の血液をも凝縮させ、暖気と血液が失われているために表層から「冷」と「乾」を駆逐する。そのように、発熱が極度の点に至ったときにも、指の爪は「蒼白の」色を示す。瑠璃(サファイア)の色は東洋的な青であり、天空の蒼穹のようである。これを眺めるに鉛の色よりも清らかであるが、それは灰色よりも「風」「水」そして光を内包しているからである。他の淡青色の気味よりも瑠璃(サファイア)の色は価値たかく尊ばれているが、それは「地」が多く「風」が少ない暗度の故である。天藍石(ラズライト)の色から銀を転成するのは容易であるが、これは銀の透明性が「風」からつくられて空色に似た趣になるためである。含有される水銀のゆたかさは銀の光沢となるが、水銀の優美というものは精妙なる「地」と清浄なる「水」そして澄み渡る「風」に因る。橙色は、金にみられる黄色の気味であり、多くの者を魅了する心地好い色であるが、これは活発かつ強力な吸収作用に由来し、その水性の元素が高度の熱にさらされて蜂蜜や尿や胆汁や灰汁にみられる色を発生させる。金の黄色は、純粋かつ精妙な「水」のあざやかな凝縮の結実であって、「水」の純度が高いほど黄色の輝きは増す。鏡は「湿」の凝固に由来するため滑らかであるが、これはなんらの影響も受けぬ「風」が無制限に活躍するからであり、この透明度は「水」に因っている。美しい橙色は、純粋な白と赤をよく混合させて出来上がる。以上のように、消化吸収の段階に応じて、元素の結合にあらわれる多様な色彩が、我らの物質に現れる。ありうべき元素の色をよく観じることで、色のなんたるかはよりよく判断されるであろう。

以下、画像はキレイなので宝石屋さんやパワーストン系のマジカルショップから拝借、文章はだいたいWikiとかをちょっと加筆したものであります。なにせ項目が多いんで御寛恕。なんだかキラビヤカになっていいですねえ(^_^
水晶(画像はPowerStoneShopより拝借)水晶は石英(クォーツ)であり二酸化ケイ素が結晶した鉱物で六角柱状の自形結晶をなす事が多い。無色透明のものを水晶(クリスタル)と呼ぶ。主要な造岩鉱物であり、花崗岩などの火成岩に多く含まれる。石英を成分とする砂は珪砂と呼ばれ、石英を主体とした珪化物からなる鉱石は珪石と呼ばれる。


緑柱石(ベリル)(画像はGalleryMasonより拝借)緑柱石はベリリウムを含む六角柱状の鉱物。金属元素ベリリウムはここから発見されたことに由来し、透明で美しいものはカットされて宝石になる。宝石質の緑柱石を表す言葉として「ベリル」が使われることがある。英語圏の Beryl は緑柱石を指すが宝石名として鉱物名と区別せずに用いられることがあり、「ベリル」が宝石質の緑柱石をさす言葉として定着したと考えられる。ベリル(宝石質の緑柱石)は緑色から青色まで様々な帯域を有する。
金剛石(ダイヤモンド)(画像はThousandBlessingより)ダイヤモンドは結晶構造を持つ炭素の同素体の一つであり天然で最も硬い物質である。結晶構造は多くが8面体だが12面体や6面体も存在し、研磨剤として利用される。結晶の原子に不対電子が存在しないため電気を通さない。地球内部の非常に高温高圧な環境で生成されるダイヤモンドは定まった形で産出されず角ばっているわけではないが、カットされた宝飾品の形から菱形・トランプの絵柄・野球の内野・記号(◇)を指してダイヤモンドとも言われている。ダイヤモンドという名前はギリシア語の adamas (征服できない、懐かない)に由来する。イタリア語・スペイン語では diamante (ディヤマンテ)、フランス語では diamant (ディヤマン)、ポーランド語では diament (ディヤメント)という。ロシア語では Диамант (ヂヤマーント)というよりは Алмаз (アルマース)という方が普通であるがこれは特に磨かれていないダイヤモンド原石のことを指す場合がある。磨かれたものについては Бриллиант (ブリリヤーント)で総称されるのが普通。
紅玉(ルビー)(画像はFramingoJewelryより拝借)ルビーはコランダム(鋼玉)と呼ばれる鉱物の一種である。コランダムは宝石の中ではダイヤモンドの次に固い鉱物でモース硬度は9。主成分はアルミナ=酸化アルミニウム(Al2O3)である。ルビーは、どんな光の中でも赤い光を発することができる。これは、ルビーの中の1%のクロムが光エネルギーに反応し、自ら赤く発光するためである。


紫水晶アメジスト)(画像は「宝石ブランド知識の泉」(ブログ)より拝借)アメシストアメジスト紫水晶)は紫色の水晶である。主に装飾用に使われる。英語名 amethystはギリシア語の amethustos(酔わせない)から派生した。アメシストを持つと酔いを防ぐはたらきがあると信じられていたことによる。色は淡いライラック色から、濃紫色まで幅広い色合いがある。紫外線に曝露すると退色する。照射する光のスペクトル組成によって見た目の色を大きく変化させるアメシストは、「カラーチェンジアメシスト」もしくは「カラーチェンジタイプアメシスト」と称されている。緑色透明の水晶が「グリーンアメシスト」と称され市場に出回っている場合があるが、これは主にアメシストその他の水晶に熱処理や放射線処理を施し、変色(エンハンス)させたものである。採掘時に緑色透明であるものはプラシオライトとも呼ばれ、アメリカリフォルニア州ネバダ州などのごく一部の地域から産出する。硬度は7。比重は2.65。組成は SiO2。素焼きの陶板にこすりつけると白い条痕が残る。ハンマーなどで叩くと貝殻状の断口が残る。
玉随(カルケドニ)(画像は「九州大学標本」より。かなり面白いサイトです。)「玉随 カルセドニ」についてはまとまった記述がweb上にあんまりありません。以下は上のリンク先の九州大学標本の説明の転載です。……繊維状の隠微晶質なシリカ鉱物の結晶が集まって球果状あるいは乳房状をなしています。半透明で脂肪光沢をもつ。あまり温度の高くない水溶液から沈殿したものでしばしば岩石の空隙を満たして産出します。凝灰岩中などではそろばん玉のような形の玉随がみられることがあり、俗称そろばん玉石と呼ばれています。
翠玉(エメラルド)(画像は「誕生石事典」より拝借)エメラルドはベリル(緑柱石)の一種で強い緑を帯びた宝石である。和名「翠玉」「緑玉」。特にエメラルドカットと呼ばれるカットがされることが多い。組成はBe3Al2Si6O18。クロムやバナジウムを含むことがある。アクアマリンは同じ成分の宝石。硬度は7.5〜8。比重は2.6〜2.8。内部に特有の傷が無数にありこれが天然ものの標識ともなっている。大きく傷が少ないほうが価値が高い。明るく濃い緑色のものが最上級とされるが、近年では科学的処理をし人的手段を用いて綺麗な物に見せている物も数多く出回っている。また、中には黄緑色をした物もある。結晶の性質上、一定方向からの衝撃に極端に弱いため、ぶつけたりしない等のケアも必要である。また、高熱にも弱いため調理をするときは外すのが賢明である。稀にキャッツアイ効果(シャトヤンシー効果)の表れる「エメラルド・キャッツアイ」やスター効果の表れる「スターエメラルド」が産出される事があるが、非常に稀少でほぼコレクターズアイテムとなり良質の物になれば大変高価である。同じベリルに属する「レッドベリル」をアメリカの宝石業界が「レッドエメラルド」と呼ぶように他国と激しい議論を重ねているが、本来エメラルドには「緑色の」と言う意味があるのでこの名称は正しくない、と考える人もいる。しかし、ベリルの語源であるギリシア語beryllosにも「海のような青緑の石」という意味がある。
瑠璃(サファイア)(画像は「宝石についての豆知識」より拝借)サファイアは鉱物の一種であり一般に宝石として扱われる。主成分は酸化アルミニウムで、モース硬度9。コランダムのうち宝石としての価値がありかつ色が赤でないものをいう。不純物の違いで濃赤色を呈するものはルビーとなる。「青玉」という和名があるように一般に濃紺あるいは青紫色をしたものと考えられているが、濃い赤以外のあらゆる色、黄色や茶色、薄紅色などのものもサファイアである。また、工業的に生産される単結晶コランダムサファイアと呼ばれる。ピンクがかったオレンジ色をしたものは、「パパラチア(蓮の花のつぼみの色の意)と呼ばれる。なかには光を当てて眺めたときに六条の光を生ずるものがあり、これはスターサファイアと呼ばれ珍重される。これはサファイアの結晶が六星柱状に配列するためである。ごくまれに六条ではなく四条(一般的にクロスと呼ばれスターとは区別される場合がある)の光を生ずるものもある。またアレキサンドライトのように光源によって色が変わるものもありカラーチェンジサファイア(但し、アレキサンドライトほどのカラーチェンジはない)と呼ばれこちらも希少価値がある。ミッドナイトブルーサファイアと称されて流通しているサファイアがあるがこれはインクブルーサファイアの色合いを呼び変えたものである。
天藍石(ラズライト)(画像は「水晶工房」より拝借)鉱物学的な領域ではいろいろ複雑な事情があるらしいがとりあえずは「ラピスラズリ」のことだと考えてもよさそうである。……ラピスラズリ(Lapis lazuli)は方ソーダ石グループの鉱物である青金石を主成分とし、同グループの方ソーダ石・藍方石・黝方石など複数の鉱物が加わった類質同像の固溶体の半貴石である。和名は「瑠璃」。深い青色〜藍色の宝石で、しばしば黄鉄鉱の粒を含んで夜空の様な輝きを持つ。エジプト、シュメール、バビロニア等の古代から、宝石として、また顔料ウルトラマリンの原料として珍重されてきた。日本ではトルコ石と共に12月の誕生石とされる。ラピスはラテン語で「石」(Lapis)、ラズリはペルシア語→アラビア語"lazward"(ラズワルド:天・空・青などの意でアジュールの語源)が起源で「群青の空の色」を意味している。方ソーダ石グループの鉱物を主成分とする岩石で、複数の鉱物の混合物。青金石・方ソーダ石・藍方石・黝方石の4つに限っては、同じ方ソーダ石鉱物グループであり、類質同像の多結晶体をなしうる。方解石、パイライトは「混合」または「混入」するのみ。

以上、いろんなところから集めてきた、それぞれの鉱物の現代的な一般知識でした。もちろん忘れてはならないのは我々が錬金術文書を扱っているということで、ここでは現代の鉱物学的な緻密な鉱物組成の問題までは踏み込まないということ。蛍光灯などはおろか、身辺にペカペカした金属も少なかったであろう「昔」は、鉱物の輝きはそれこそ現代以上に神秘に見えたであろうし。そういう意味では、日本の名刀、たとえば「妖刀」なんていわれるものも、存在しておかしくない時代を想起せねばならないのではなかろうか。現代ほどに輝くもの、光るものがさして存在し得ない頃に、スラリと抜けばでてくる、美しくヌメりとひかる、いとよく鍛えられた「金属体」は、そりゃこそもうライトセイバーであって、魂の底からもうコレに操られちゃう、なんていう心の状態を想像するのはなんとも容易だ。そういう物質の存在の驚異に、現代からは思いも寄らぬほどに霊感キック!されていたであろうことを前提にすると、現代的のいろんな衝動もまたミエてくる気がしないでもない、わけもない、くもない。