叙階定式書

 終了でございます。

ノートン師匠のOrdinal、ようやく完成でございます。 軽い気持ちで始めたわりにやたら時間がかかってしまい、そのくせ内容的にはイマイチ乗り切れなかったりしてうだうだと間を空けたり。 でも、こういう、詩想もオドロオドロっぽさもうすめな感じが、英国式…

第28回 錬金術の叙階定式書 第5章(11)

また匂いの感覚もまた、支配的な元素を認識するにあたっての指標を汝に与えるであろう。匂いは色が与える指標とともに、元素の結合における「第一動因」の探求を示唆する。白と黒のふたつが色の極致であるように、悪臭と香気は匂いの極限である。だがしかし…

第27回 錬金術の叙階定式書 第5章(10)

薬草の根は外側に冷たく内側に暖かであると医師らは言うが、この例証は香しい菫草(ヴァイオレット)を観察すれば明らかである。薔薇が内部に「冷」、外部に「赤」であるというのは一般的な自然学にもいわれる通りである。アナクサゴラスはその『自然変成』…

第26回 錬金術の叙階定式書 第5章(9)

さて、その性質について漸く汝に語る段になった。我らの術の過程に於いて現れる、さまざまな色彩の出で立ち現れる原因を汝に説こう。およそあらゆる物体の白さは透明度の結実である。黒さは、物体の密度が構成素を厚くして透明度を遮蔽する際にあらわれる。…

第25回 錬金術の叙階定式書 第5章(8)

元素の結合、あるいはその同化吸収については既に述べた。ここからは、我らが石の栄養摂取について説明を加えることにしよう。あらゆる段階に於いてもよく混合され、そして「乾」の働きで引き締まった均質の気質(ユーモア)というものが存し、このありうべ…

第24回 錬金術の叙階定式書 第5章(7)

さて、学識深くも四つの元素が結合し、事物の互いがそれ自身の適正なありようで整ったならば、我々は完全化に至るまでの煮沸の様々な段階のなかに、次々に連続して変化する色彩を目前にすることであろう。これは物質が自然の暖気にあおられて滾り沸くからで…

第23回 錬金術の叙階定式書 第5章(6)

さて、ここからは元素の結合についての吟味に移るが、この問題については以下の規範を策定することができる。まず(1)文法学的な結合をするにあたり、元素それ自体の有するしかるべき規則に則らねばならない。こうした規範というものは、学べる者の作業を…

第22回 錬金術の叙階定式書 第5章(5)

ときに人間のもつ素質の力が医者の術なしに病を克服させることもあるが、疾患の進行を遅らせたり、医者の対処なしにはもはやどうにもならなかったりといった多くの場合に、医者の処方は賞賛されるものである。しかし、ことは我らの鉱物の医薬に関しては異な…

第21回 錬金術の叙階定式書 第5章(4)

この原理の事例は、ただ緑の樹木を火にくべるだけで得られる。乾いた重厚の物質に「冷」が影響すれば黒が現れる。重厚さは、軽やかさの不明瞭および欠如の原因であり、色の非存在は黒だからである。引き締まって濃密な物質は「冷」の影響下に生命の破壊に瀕…

第20回 錬金術の叙階定式書 第5章(3)

さて、斯術の探求に余念なき汝に語ろう。変成に向けて物質が調合されたならば、それを四元素に分離し、分割せねばならない。もしこれができないのであれば、汝はこの点について比類のない論考をものしているホルトゥラヌスの著述にあたるがよい。この書のな…

第19回 錬金術の叙階定式書 第5章(2)

両替商であったブリセウス*1は多くの人々に損失をもたらしたが、他方ではその取引を悦び、これを満足の源とする者達もいた。当時は、誰もがこうした出来事を耳にして不思議さに驚きを禁じ得なかったものである。そうした時代からさして時は隔たっておらず、…

第18回 錬金術の叙階定式書 第5章(1)

カゼをひいて数日ねこんでしまいました。 大きなケースに入った天秤を前にして、月と太陽の象徴をもてあそびつつ、蒸留器の前であくせくと働く召使いに指示をとばす術師。そういえば、以前書いたエントリー、「マイヤー『黄金の鼎』のイラスト」でも大きな天…

第17回 錬金術の叙階定式書 第4章(4)

術に必要となる種々の鉱物については、アルベルトゥスが完全な吟味を遺しているところであるので私が繰り返す必要は無かろう。ここではむしろ鉱物の特性について記したいところだが、まずは我らの術の進捗において、不毛なる結果をまねくことを明らかにしよ…

第16回 錬金術の叙階定式書 第4章(3)

多くの場合、愚かな学徒はこの点に於いて混乱をきたし、アナクサゴラスの言辞の真実であったことを証明することになる。曰く、何人もまた耐え難き経験から思慮分別を身に付けねばならぬ。昨今、この不潔な作業が潔癖な人士の手を汚すことのないように、純粋…

第15回 錬金術の叙階定式書 第4章(2)

充分な食餌と飲料が与えられたときには、眠りを欲する物質を看護する必要がある。我らの仕事は細心の注意のもとに不寝番を必要とし、それは栄養価の高い滋養によって育まれねばならない。「故に、いかなる貧しき者にもこの作業を慎ませよ。斯術は世の富める…

第14.5回 錬金術の叙階定式書 第4章(番外)

第4章の前には以下のイメージが置かれています。 かなり見にくいですが錬金術の達人たちが、仕事場へと指示を垂れている様子。左からヘルメス(言うまでもなくトリツメギストゥス)、アル・ラージィー(ラーゼス)、アルノー・ド・ヴィラノヴァ(本文では英…

第14回 錬金術の叙階定式書 第4章(1)

はい、ひとつき経ってしまいましたが生きております。ハイ。 ということで第4章スタート。 偉大なる作業の詳細を説くと私は約した。その責務から逃れようとは思っていない。汝に真実を伝道せんとあらゆる尽力を向け、あたう限り完全に奥義を導こう。誓約の損…

第13回 錬金術の叙階定式書 第3章(2)

第3章はこれにて終了、短いのです。 「では教えてください、まことの原料は太陽(金)と水銀、あるいは太陽と月(銀)なのでしょうか。あるいはこれら三つなのでしょうか。あるいはそれは金そのもの、水銀そのものなのでしょうか。さもなくばそれら二つと硫…

第12回 錬金術の叙階定式書 第3章(1)

さて第3章のスタートです。「T」は老錬金術師タンシルスのTです。 タンシルスは容易ならざる探求に六〇年もの刻を費やした。西部のブライアンやホールトンなどもまた、昼夜を問わず術の実践に従事した者たちであるが、彼らはこの高貴なる学理の精髄を見出…

 第11回 錬金術の叙階定式書 第2章(5)

第2章は今回で最終回です。 汝が身を守らねばならぬ第三の敵は欺瞞である。これは前述したふたつよりも恐らくはずっと危険なものである。汝が炉を燃焼させるために雇わねばならぬ傭僕は、最も信用ならない人物である場合がある。不注意な者もいれば、炎に傾…

 第10回 錬金術の叙階定式書 第2章(4)

もし汝の心が美徳に忠実であれば、悪魔は全力を尽くして汝の探求を阻止するであろう。性急さ、絶望、欺瞞という、相次いで仕掛けられる三つの躓きの石がこれであり、悪魔が恐れるのは、汝がこの秘奥に通じて良き作業に成功することなのである。第一に、あま…

 第9回 錬金術の叙階定式書 第2章(3)

博学の者、そして学舎に通う学徒らは、こうした愚かな人物の悲劇の結末を耳にして、注意を喚起すべきである。かようなことに常なる配慮を欠けば、自身にもまた同様のことが降りかかると肝に銘じるのである。学徒の多くは、それが誤りであっても、書物に大胆…

 第8回 錬金術の叙階定式書 第2章(2)

更に別の例を挙げて、我が意図するところを明らかにしよう。あたかもレイモンド・ルルや修道士ベーコンのごとく、己がこの術に深く熟達していると思い込んだ男がおり、自らを比類なき者と称するほど高慢であった彼は、ロンドンからほど遠くない小さな街の司…

 第7回 錬金術の叙階定式書 第2章(1)

さて第2章の始まりです。第2章では、いろんな物語をノートン師が語ってくれます……が、ちょっと辛い話が多い。 「N」はノルマンディのNです。 かつてノルマンディに、様々な身分を股にかけ人々を騙した修道士がいた。この術について完全な知識を握ってい…

第6回 錬金術の叙階定式書 第1章(4)

以下、これにて第1章はおしまいです。 斯様なものが、いつ、如何にして地表にて増加しえるのであろうか。誰でも平均的な知性のある者であれば、水が凍ることやそれが場所によって多寡のあることくらい知っている。凝固前の水は、小川や溝渠では少ないが、し…

第5回 錬金術の叙階定式書 第1章(3)

さて汝、この叡智を求める者よ、虚偽から真実を見抜くすべを学ぶべし、錬金術の真の探求者は原因をさぐる哲学によく精通している必要がある。さもなくば、あらゆる労苦は無に帰することであろう。とはいえ真の探求者たるものは、みずからの責任に於いて探求…

第4回 錬金術の叙階定式書 第1章(2)

つづき……。いち画面で収まるくらいの長さかな、というところでUPしております。 この術が、その目指すところのために聖性を否定されるのも尤もなことではあるが、それでも尚この術は核心に秘めた理法のゆえに神聖視されて然るべきである。何人たりとも神の慈…

第3回 錬金術の叙階定式書 第1章(1)

『英国の化学の劇場』に収められた版に置かれている図像。 錬金術のイニシエーション。選ばれた者が天授の秘密を守ると誓っている。 門の向こうに別の世界があるという意匠は『太陽の光彩』の第1図ともよくにている。 アシュモール『英国の化学の劇場』版で…

『トマス・ノートンの錬金術の叙階梯式書』書評

イギリスの書店Boydell&Brewerが刊行しているEarly English Text Societyという叢書の第272巻に収められている。PMCにあった書評(リンク先でDL可能)によると…… JOHN REIDY (editor), Thomas Norton's Ordinal of alchemy, London, Oxford University Press…

トマス・ノートン氏をめぐるいろいろ

ここ数年でめきめき実用的になって(?)なんでも検索してみるととりあえずヒットするWikipediaだが、英語版では「Thomas Norton」の記事がちゃんとある。(Wikipedia:Tomas Norton)ちなみに日本語版には無い。……とかいってる奴が書けばいいじゃんか、とい…