フランシス・F・コッポラ『ドラキュラ』アメリカ1992,126分


洋画ファンが好きそうな役者がいっぱい出てたけど、ヴァン・ヘルシング教授をアンソニー・ホプキンスがやってて、ほとんど悪役に見えてくるくらい凄い。・・・みどころはそんなところか。いや、うーん、そうね、「ゴシック」の絵造りには気合が入っていた。ゴシック・ロマンのなんたるかも知らんゴスロリ連中とかは見た方がいいかもしれない。すえたようなにおいを放つほどに人間の業を背負って死臭フンプンたる古城、そこに起こる惨劇は、過去をなぞる人間のおろかさか、はたまた人智超えたるものの意志か・・・とおい人間の過去を背負って、ゴシックとは恐ろしくもセツナイものではなかろうか。

確かにこの映画、油断のないゴシック映画としては聖典に近いかもしれない。そういう醒めぬ悪夢に酔うことができる映画ではある。ルーマニアの古城だの、19世紀末ロンドンだのの映像には溜息が出る。衣装には日本人デザイナーを起用したらしい。しかしこのデザイナー、近代ヨーロッパ世紀末の服飾の知識は深いものがあった一方で、中世の知識がなかったんじゃなかろうか。それともワザとなんかな。まず最初の十字軍シーンの甲冑で、観ている方としては気持ちが離れちゃう。・・・十字軍はあんな格好しねえだらぁ〜。なんだろうなーアノ理科室にある筋肉模型のような赤い筋の入った鎧はー。ドラゴンを模したと思しいメットもなんかチャチくて変。コスチュームとしてもっとありきたりの中世鎧のほうが、時間的距離感が表現できたんじゃないかなあ。まあリアリズム目指してるわけじゃないんだろうけど・・・それならそれだけ見てる方の気持ちが離れるようなセンスはイカンのではないか〜?

で、敵に欺かれ騙された妃が河に身を投げちゃうなんて破天荒な流れは、まあゴシック・ロマンだから直情径行なハイ・テンションのノリで良いんだけど、甲冑で気持ちが離れちゃったこっちはモウ、「ああ〜愚かな女だなあ、やだなあ」とか批判しはじめちゃう。

現代のシーンに移ってロンドンの造りに感心して気を取り直すも、ドラキュラ伯爵の最初の姿に萎える。いや、まあ、アヤシい伯爵様ですからね、少々妖怪じみてオカマくさいところがあったり髪型がヘンでもいいんだけど、これから筋が、あとあと伯爵のロマンスを追いかけることになるのはわかってるんだから、だったらもっと「精神性の高いドラキュラ伯爵」でいて欲しかった。どうもこのあとのロマンスに感情移入できねえのは、伯爵の「妖怪要素が強すぎてキモイ」からだろうし、婚約者の女が伯爵になびいちゃうところに納得がいかねえのは、繰り返す歴史の運命観が表現しきれていないからだろう。

死んだ妃への執着が強すぎるぞ。4世紀も生き存えて、こんな煩悩マミレのドラキュラなんか格好悪いよ。それでもまだ若い二人の婚約関係に水を差さにゃならんなんて、ちょっと「長寿妖怪の仙人キャラ」が弱すぎる。ドラキュラの悲しみってのはもっと、長く生きすぎた者だけが持ちうる、時間的歴史的な超越からにじみ出て来て欲しかった。

ドラキュラが恐いのか、ゴシックに酔うのか、ロマンスに感情移入するのか。要素がバラバラすぎて、なにがやりたいのか判んない映画でした。評価する点は、いっぱい感じられんだけど、勿体無い。