溺れる王の寓意

『逃げるアタランテー』釈義31〜40を本家サイトにアップした。
ブログ引越のどさくさで、頻出する「溺れる王の寓意」の代表選手『デュネク王』がどっかいっちゃったんで再アップ。やっぱり黒の過程から脱するには、サウナがいちばんなんだろうか?『逃げる〜』では象徴13、ぴったし28、それから48とか、あとはラムスプリンク寓意画にも出て来るが、コレはまだアップしてないんでまた後日。

身の回りでアヤシい風邪をひいているひとが多い。かくいう自分も1週間、声が出なかった。長距離トラック・ドライバーのようなワイルドな声だとさんざん褒められましたが、けっこう辛い。毎年、風邪とかインフルエンザはわけのわからん凶暴さを備えていくなあ・・・。

デュネク王の寓話 〜The Duenech allegory〜 錬金術概論の大著『化学の劇場』第三巻所収。

デュネクと呼ばれる老いた君主がいた。王は深い憂鬱にとらわれて、会議のさなかにも諸候のあいだにあって自らを価値なきものに思いなした。この憂鬱を鎮めるため、どうすれば血流にのせて他のすぐれた体液気質を優勢にすることができるだろう、友人たちと思案に暮れた王は、医道の大家である医師ファルトを呼ぶべく使者を遣り、王を癒すことができたあかつきには高い報酬を与えようと持ち掛けた。ファルトはただちに答え、それが長く辛い治療であり、彼が王を治癒しうる途はただそれしかないが、かならずデュネク王を治癒すると誓った。

医師と患者は治療を始める時期を、土星が太陽の背後に位置するころと定めた。そしてファルトは臣下の者すべてを君主の館から追い払ったが、派手な衣装に身を包んだ道化だけは例外であった。道化は君主を愉しませるべく、館に留まることを許されたのである。

ファルトは、かまど近くの煙にやられることがないように王をよく包み、白い敷布に覆われた寝床に横たえ、そして王が敷布をすっかり濡らすほど激しく汗をかくように清水を飲また。デュネクの体全体のなかで、黒い胆汁が次第に薄れてゆくころファルトは、若く黒い鷲の羽毛に満たされた別の寝床と、白鳥の羽毛でできた枕を設えた。寝床は、黒の敷布の上に白い覆いが掛けられた。デュネクはこの寝床に横たえられ、汗も蒸気も漏れぬようにあらゆる空気穴は閉じられた。熱せられたこの寝床で、黒い胆汁が王の頭の先まで広がるように、ファルトはデュネクの体と足を酷い臭いのする油で摩擦した。この間、デュネク王は幾度か気を失い、それは色の変化からも明らかなことであった。ファルトはデュネクの口を開き、王の口蓋が白くなっているのを診てとると、治療の効果を確信した。とうとう医師は、干上がった君主を第三の寝床へ運び、硫黄を混ぜ合わせた水と油で生き返らせた。

デュネクが自身をまじまじと見据えてみれば、憂鬱から解き放たれ、新しく健康な血液をみなぎらせて、臣下の兵士にもまさる力を快復させていたのである。