ドナム・ディ 第10章

つづき・・・。

第十章 容器中の水の上、黒雲が如何にしてその由来する物質へと溶解するか。
黒を見出すべし。黒よりもくろく、多種多様の色彩がその中より現れるであろう。処女の乳は白くなり、そしていま蘇るわれらの《嫡子》は火の征服者となり、染色素にも勝り、《海》より霧雲は立ち昇り地に雨を降らせ、重く濃密で密なる物質はすべて自身の核へと収斂される。万物を秘めたる真鍮より昇華されし《活ける水銀》は澄める水でありかつ真の染色素であり、それは汝の真鍮を払拭する。それは唯、真鍮を白化せしめ得る白き硫黄であり、霊気が飛び去らぬよう繋ぎ止めるものである。容器の頚はいまだ鴉の頭であることに留意せよ、其れは汝の命を容易に奪うであろう。そしてそこからこそ鳩が生じるのであり、後にこれが不死鳥となる。これら僅かなる言辞とともに、全き学を白へ赤へと至らしむる者よ、さいわいなれ。



灰の灰。
黒き雲がその生じ来たる物質へとふたたび降り、そこに地と水の結合が為され、灰を生じる。鴉は黒く、鳩は白く、不死鳥はみずからを焼き尽くして灰中より蘇る。

本文では言及されていないけれども、フラスコのなかにはなにやら星形の可憐な三輪の花が咲いている。この図像はドナム・ディの挿絵としてよく引き合いに出されるけれども、もとはドナム・ディの伝統に倣ったミュリウスの『Anatomia Auri(1628年)』から引かれている。いくつかの異版にはいろんな挿画があるので、この章にはまた別の画がついているかもしれない。1475年の版では(上)とか、18世紀初期でもこんな(下)プリミティフなものがあったりする。


後は11章、12章でドナム・ディは終了です。