第7回 はたらくカッパについて(ネタバレ注意)

北海の街に住むアンヌは病身の父に代わって働くため就職面接に赴くが、ひょんなことからカッパ族の末裔たちが生きる潜水艦「たこぶね」に乗り込み、まかないとして雇われ、カッパたちとともに数々の冒険に巻き込まれることになるが、買い出しで上陸した街で更なる奇想天外の世界を経験してゆく。なんて、もはや物語の筋などは微塵も意識するようなものでもないが、やたら一般読者ばなれした過度なコマもなくゆるゆると逆柱世界を楽しめる長編物語。冒頭のアンヌの街がロシア語風看板の多く散見されるところもまた新境地、「たこぶね」の深海の旅もまたグロでキッチュな世界を楽しめるし、幾つかの伏線が絡まり合う『ケキャール社』ほどの複雑さもない。カッパが電気科に至って癒されてからはがらりとトーンが落ちて、かつて『馬馬虎虎』の「うに」以来のデート感覚に収束してゆく。他の作品に同じく読者を選ぶ作品であることに違いはないけれども、『ケキャール社』が入手困難な今、現行品で新品が定価で買えるのは逆柱いみり入門として貴重かもしれない。青林社から青林工藝舎への以降時代の立役者、手塚能里子氏によるあとがきも貴重だが、一体どこまでまっとうな逆柱いみり論として捉えてよいものやら判らない。