ミルチャ・エリアーデ

名にし負う世界宗教史』の1991年初版に付けられた帯の文句がスゴい。

「宇宙的ヴィジョンに支えられた古今未曾有の偉大なる業績!:先史時代からのあらゆる宗教現象の史的展開をたどり、その深遠な統一性を求めて著された人類の精神史。膨大な資料を博捜した碩学エリアーデ畢生のライフワーク。」


※イメージ検索でかろうじて出てくるエリアーデ

※滅多に見ないけどココのサイトのロゴがなんかエリアーデに見える。

90年代初頭はいわばこういうオカルティックな書籍が綺羅びやかに書店をかざっていた時代だから、どうもそういう方面に貧血気味な昨今の出版事情から顧みるに懐かしい。こんな硬派な書籍からすれば、最近の本屋なんぞ離乳食ばかり喰わせる気味の悪い料理屋みたいにおもえてくるもんで、読みやすいものばかり散々売って、読む方には書物を所有する喜びなんぞなく、読めばサッサと○ックオフかなんかに流しちゃうんだろうな。

うっかり愚痴になったが、そんなことを書きたいわけじゃなかった。エリアーデ、だった。
ちょっと探せばウェブのどっかに略歴があるだろうが、先に紹介した『世界宗教史』の著者略歴がイイのでこれを紹介しておこう。

「1907年ブカレストに生まれ、1986年シカゴに死す。少年期に第一次世界大戦を経験した「若者の世代」の旗頭として、ブカレスト大学で哲学を専攻する傍ら、新聞・雑誌などに寄稿を始める。1928年にカルカッタ大学のS.ダスグプタに師事するためにインドに留学し、ヨーガを文献と実践の両面より研究した。ルーマニア国内では作家として名声を得たが、西欧では宗教学者として注目を集め、国際的な宗教学雑誌『ザルモクシス』を創刊。第二次世界大戦パリ大学で宗教学を講じる一方、エラノス会議にも出席する。1956年シカゴ大学に招かれて以来、教育と著述の後半生を送ったが、小説・日記・自叙伝などの文学作品はルーマニア語で書き続けられた。」

大学時代、シュルレアリスムを専攻しながら錬金術という西洋の伝統を調べていたヘンな学生だったので、なにやら胡散臭く感じるところを割り引きながらも、宗教学とか民俗学からも情報を得ようとしていた。やはりというか、恥ずかしながら『鍛治師と錬金術師』を読んだときには、すっかり「宇宙的ヴィジョン」にやられてしまったわけで。

エリアーデ『鍛治師と錬金術師』は、著作集の第5巻。

その錬金術研究のなかでの位置づけはサイトMacrocosmの地の過程「錬金術とは何か」のなかに盛り込んだつもりではあるけれども、「火と鉱物をあつかう古代民俗の鍛冶師を、大地の子(金属)を育成(錬成)する聖なる役職として、ここに錬金術師の起源をみる」なんて程度ではまとめきったことにゃあならないだろう。とはいえ、書籍の内容をここにまたまとめるのもアホらしいので、備忘録的に章立てを書き出してみよう。あるいは、これからこの本を読もうかというひとの役に立つなんてことも、あるかもしれない。ないかもしれない。

第1章 隕石と冶金術 第2章 鉄器時代の神話 第3章 性化された世界
第4章 大地母(テラ・マーテル)生殖の石(ペトラ・ゲニトゥリクス)
第5章 冶金術の儀礼と秘儀 第6章 炉に捧げられる人身御供
第7章 バビロニアにおける冶金術のシンボリズムと儀礼
第8章 「火の親方」 第9章 神的な鍛治師と文化英雄
第10章 鍛治師、戦士、イニシエイション導師
第11章 中国の錬金術 第12章 インドの錬金術 第13章 錬金術とイニシエイション
第14章 術の秘密(アルカーナ・アルティス) 第15章 錬金術と時間性

ホントすげえ、諸星大二郎に漫画化して欲しいです。ブラックジャックの憑次済さん(そんな字だっけ?)みたいなひとが主人公でね。

どれも重要なテーマですが、とくに第1・3・4・8・9・14・15章は、中世の錬金術の精神的な部分に直結される気がするし、ユングをやるひとには不可欠の情報ではないだろうか。まあ専門家でもないのに言い切るとウルサイところもあるんで、好事家の戯言ていどに受け取って下されば。
しかし、学問的に確立してない領域って、なんであんなにエバるひとが多いんだろうか。
ひとの心象を害さずに蘊蓄めいたはなしをすることの難易度が高いってだけなんだろうな。
しかめツラの押し売り知識は、きにすまい。