●テオ・アンゲロプロス『霧の中の風景』1988 ギリシア/フランス 125分

まだみぬ父を求めて彷徨う姉弟、うらさびれたギリシアの街、暗い海や空の風景、怪物のような巨大機械、海中から現れる石像の手が彼方を指す・・・そんな印象的な絵の数々が、はじめてアンゲロプロスの映画を観たときからずっと、かれこれもう10年くらいも脳裏にこびりついていて忘れられないものになっていて、しかしこんなのは、そこらのレンタルで気軽に借りられるような映画でもないから、ずいぶん長いこと印象の深淵に沈殿していた。

いったん与えられちゃったこういうイメージ群は、血や肉みたいな自分の構成要素になっていて、きづかぬところでむっくり頭をもたげてきたり、デジャ・ヴュのようにおそいかかって来たりするようになる。ずっと前に、いちど観ただけの映画の話、であるから、アンゲロプロスってひとはホントに偉大。

いったん、うっすらとでも「また観たいな」なんて思っちゃうともうダメ、我慢できなくなって全集DVD購入、届いてさっそく鑑賞できた悦楽はもう、はるか昔に旅した土地にまた足を踏み入れたような、はりさけるような気持ちそのもの。

で、以前はよくわからなかったことにいろいろ気付かされる。
絶妙なのはケース付属の解説書で、アンゲロプロスの映像詩のさなかに放り出されたときに、ときとしてよくわからなくなってしまうストーリィ部分(ストーリィが部分でしかない、というのは映画の快楽にとってすごく重要だとおもう)をさらっとまとめていたり、撮影秘話や監督へのインタヴューから、かなり深い部分がみえてきたりする、とても出来のいい冊子が入っている。
Amazon:テオ・アンゲロプロス霧の中の風景(全集 I~IV DVD-BOX III所収)