蜂の旅人

テオ・アンゲロプロス『蜂の旅人』1986 ギリシア/フランス/イタリア 122分

ギリシアを蜜蜂と旅する老人を通して、人間の愛と老いを描いた作品。スピロは小学校教師を辞め、娘の結婚と同時に旅に出た。彼の家は代々、養蜂を営んでいたのだ。蜂に蜜を吸わせて移動していると、ヒッチハイクしている少女に出会った。彼女はスピロを誘惑するが、もちろん無視。だが、しつこく付きまとわれる。なんとか一人旅に戻った彼は旧友を訪れ、懐かしい思い出を語り合った。だがその後、またあの少女がスピロの前に現れる……

そのように紹介されてますけど。アンゲロプロス映画なんですから、そういう筋書きに感じてドラマを期待してもピンと来ないことのほうが多いはず。まずいつにも増しての映像美、ロングショット、そしてマストロヤンニ。とはいえ、人間や人生を風景のなかに溶け込ませるアンゲロプロスが、これほどまで強く人物を描くのは意外な感じ。

ギリシアってのは共和国になって平和になったのはまだ1970年代で、それまではずっと戦争と内紛のどろぬまだし、それ以前だってトルコ支配が14世紀くらいからずっとだったんだから、ギリシア人の彫りの深い顔の奥にある憂いだとか、古典時代以来の議論好きだとかもなるほどな、というところなのだ。そういう歴史を担っている「過去のある男」と「未来しかない奔放な少女」が、これまた凍てつくようなギリシアの風景のなか、ぶんぶんと羽音を立てるハチの満載されたトラックで、春を求めて疾駆する。

・・・とはいえ、テーマはギリシア現代史のなかで分裂しがちなおじさんの内面を背負っているので、これを共感して観るにゃ、まだまだ自分の年齢が足りねえのかな。でも、ナフプリオンの映像は美しいし、蜂の飛び交うセイタカアワダチソウ茂る石灰質の丘の上などは、アンゲロプロスでは珍しい?南の映像。

ビクトル・エリセミツバチのささやき』なんかもちょっと思い出してみたり。