ヴェルナー・ヘルツォーク『アギーレ/神の怒り』1972 西ドイツ 91分


未開の自然の中で何かを実現させようと夢見る男の野望を主題にしてきたW・ヘルツォーク監督の代表作。黄金郷土エルドラドの存在を狂信するスペインの調査隊副官は魔の手の潜むアマゾンを邁進する。黄金郷を求めてアマゾン奥地へ踏み込んだスペインの征服者たちが陥っていく狂気を描いた、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が贈るドラマ。怪優K・キンスキーとはこれ以降5作品で組んでいる。

タイトルは『キンスキー/脅威の俳優』でキマリ。16世紀に黄金郷エルドラドを求めて行軍するという時代背景とか衣装とか小道具とか感情移入とか、そういう瑣末なことはどうでもいい。我々が観ているのは紛れもない映画であって、これを実現する俳優たちとか監督のパワーが「狂気」とまでいえる圧倒的なハイテンションを極めているから、猛々しい主人公アギーレの猛進にひきずられて展開する全編つらぬく狂気に、普遍的な真理のようなものまで感じられてくるのである。

極限状況、およそ実現不可能なだいそれた野望。この無謀ともいうべきアマゾンの探求へと駆り立てられてゆく人間の内面の真実が、現実のものとして成就していたとしたらという仮定は「あらゆる人間の偉業を支えるかもしれない猪突猛進の狂気」というものに美をみいだす可能性すら想像させる。