王と鳥

ポール・グリモー/ジャック・プレヴェール王と鳥』「やぶにらみの暴君」改作 フランス 1955/1979 81分

タキカルディ国のシャルル16世は、生来の"やぶにらみ"そして"暴君"。肖像画を描かせても"やぶにらみ"のまま描いた画家を殺してしまう。ある夜、肖像画の中の羊飼いの娘と煙突掃除の少年が動き出し、二人は現実の世界に飛び出してくる。'52年に未完成のまま発表された「やぶにらみの暴君」は、宮崎駿高畑勲ら世界的なアニメ作家たちにも多大な影響を与えた伝説の傑作。本作はその「やぶにらみの暴君」に監督自身が手を加えたディレクターズ・カット版。アンデルセンの原作を基にアニメ界のパイオニア、グリモーがフランス最大の詩人、ジャック・プレヴェールと組んで作り上げた歴史に残る名作である。音楽は「枯葉」で有名なジョセフ・コスマが担当。'52年第13回ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したほか、世界中で数々の映画賞に輝いている。

最近ではこういう紹介のされ方。

ジブリの“原点”「王と鳥」を日本初上映(2006年3月22日読売新聞)スタジオジブリは17日、完成まで30年以上の歳月を費やした仏のアニメーション映画「王と鳥」(ポール・グリモー監督)のデジタルリマスター版を7月29日に公開すると発表した。フランスで初の長編アニメーションとして1947年に制作を始めたが、途中で資金が底を付き、プロデューサーの判断で52年に「やぶにらみの暴君」のタイトルで公開された。これを問題視した監督が63年、権利を買い取ってリメークを開始。79年、「王と鳥」として完成した。高畑勲宮崎駿両監督が多大な影響を受けたジブリの原点ともいえる作品で、自ら日本語字幕を手がける高畑監督は、「繰返し参照するに値する、先見的できわめて今日的な作品」と評価。「もしこれを見なかったら、漫画映画の道に進むことはなかった」と話す。高層宮殿を舞台に、恋に落ちた羊飼いの娘と煙突掃除の青年を、孤独な王が引き裂こうとする物語。王が2人を追いかける場面に影響を受けた宮崎監督は、後に「ルパン三世 カリオストロの城」の追跡シーンでオマージュを捧げたと言われている。完成版の日本での上映は初めて。東京・渋谷のシネマ・アンジェリカで公開。

劇場公開は7月29日からだそうで、おおいに盛り上がっている様子ですね。最近にDVDを購入してから気がつきました。むか〜し観たとき、とにかく音楽が印象的だったのだが、今回改めて観てみて「ん〜そうだったかな」と。古い版では音楽も違っているようで、それをLDで観たのだろうか。どうもちょっと印象が違った。まあそれはよし、で、この作品、何か語れるものだろうか。

アニメとしての古さはもう仕方のないところだが、それを現代アニメへの影響の点(2006年7月末、ジブリ主体で渋谷で劇場公開するらしい)で語るのも、もうどうでもいいやって所。社会構造と革命のテーマを言い出しちゃうと簡単になってしまいそうだ。

なんだろうなあ、これもやっぱり感情移入すべき対象がはっきりしている映画じゃない。だからいいんだ。煙突掃除と羊飼いの少女(ルパンとクラリスか)は、事件の中心でこそあれ逃避行の冒険譚の中心人物としてはちょっとキャラクターがうすい。さすがタイトル通りというか、この映画はまさに「王様と鳥」が眼に楽しい存在なのだ。「観る」という行為を、単純な感情移入でしか引き付けられない映像は数多いが、たしかにそういうものとは一線を画して「観所」の多い映画だ。めもくらむような高層の城、王の秘密の部屋、いつも気に喰わぬ相手をボタンひとつで落としちゃう王、警察の乗り物、城の下層の住民たち、動物たち、革命、そして巨大ロボ。この作品は、純粋な「観る快楽」にあふれている。

そうだ、最後のシーンで、破壊し尽くした城の瓦礫に頬杖ついて座り込むロボットの姿、なんであれ、これは忘れられないシーンになる。ふたりが逃げ切れるかどうか、その後は、もうそのへんもどうでもいいのだ。何度も何度も罠に捕まってしまう愚かしいひなどりは、最後にロボットの鋼の指先に解放される。そしてひなどりを何度も捕らえた罠籠が「くしゃ」っと潰される瞬間の幕、なんであれ、こればっかりは、さすが、と手を叩きたくなる30年越しのエスプリなのではなかろうか。