第8回 キャラクター(登場人物)について [随時更新予定]

登場人物の性格からうまれるドラマ性、という意味での内容・ストーリーはまったく重きを置かれるものではないので、キャラクターにあまり重要な意味はない。それゆえにか在る程度スターシステムを思わせるマンネリズムもあって、読者はこうした或る意味でのスター・システムのなかで既視感を愉しむことができる。展開する風景のなかに偏在する意識=1人称キャラは、一応漫画という体裁をとるために置かれているように考えてもよかろうが、当試論では「偏在性」という意味でひじょうに重要な存在とみている。例としては、初期の男、怪人うさぎ、変幻ねこ、ネコカッパなど、内面の凶暴性に対抗しうる、ある種の超越性を秘めた存在でないと務まらない役割でもある。それ故に「女の子」はまた別格なので注意が必要である。
●アイウエオ
アメリカ]逆柱作品の世界には、どことも知れぬところからやってきては住人たちに不安を与える「アメリカ」という存在がある。体長は(おそらく)15〜30cmくらいで、全身が白く頭が丸い。よちよち歩きができる程度の手があるが胴体は尻切れトンボに終わっている。目鼻の無いテルテル坊主のようなもので、群をなして魚の死骸などに蔓延る。近作では労働者を飲み込んだあと濃厚な白い液体をはき出し、それをもとに自ら料理をしたりする。どうやらこれはシチューのように味わえるらしい。(だたしネコカッパの味覚を『はたらくカッパ』のカッパ族とほぼ同一と考えるならば、アメリカの吐きだしたものを通常の人間が味わえる可能性は低い)
[女の子]逆柱世界における労働の主体であるが、風景を逍遙する意識としての1人称キャラではない。『血痰処理』以降、資本主義社会でけなげに前向きな生き方をみせているが生活態度としてはかなり気怠げであって、永遠に続きそうな日常への隷属状態常から何とかして脱却したいと感じている。気怠げかつ無関心、ときに文語体で話す「女の子」の起源は『マナティ』にみることができる。初期短編『象魚』には多彩な女の子たちが登場し、基本的にはジュブナイルを刺激する少女であるが、ここには後の「女の子」に至るさまざまなアーキタイプが存在している。「女の子」が1人称キャラと行動をともにして異世界をめぐる非日常への飛躍と冒険が、数少ない逆柱作品のストーリー部分の根幹をなしており、さらに「うに」後半で描かれるような開放的中庸にいたることもある。近作では『はたらくカッパ』の終盤がこれにあたるが、労働から解放への変転は、ほっかむりの有無にあるかもしれない。
●カキクケコ
[怪人うさぎ]『象魚』に収められた最初期の作品で、直接に作者を示しているような男に代わる1人称を務めるようになる。飄々とした性格の裏側にはあまり人生への深い洞察は無いようで、日々を過ごす糧のためには平気で詐欺をはたらき、それがまたひじょうに巧み。後に詐欺師的ジェスターの属性を帯びてゆき「変幻ネコ」とは一線を画すようになる。
●サシスセソ
[散髪をする二人]『象魚』所収「血痰処理」、『馬馬虎虎』所収「アメリカ」などで現れる極めて静謐なイメージ。
●タチツテト
[出前ロボ]どこか彼方のラーメン屋から、裸でくつろぐ休憩中の踊り子さんたちに出前を届ける仕事をしている。電車に轢かれても、棒などでなんど叩かれても起き上がる頑丈者だが、あたかもゼンマイででも駆動するような、ふるいブリキ玩具のおぼつかぬ動作しかできないのですぐに転倒する。腹部に仕込まれたラーメンは配達されるまでにいつもグチャグチャになってしまうのである。
●ナニヌネノ
[(ネコ)カッパ(族)]青林工藝舎期(2000年以降)の1人称キャラ。カッパとネコカッパには単行本単位の相違があるが1人称キャラ〜主要キャラとしてほぼ同一の位置づけと考える。旧期・青林堂ガロ時代の変幻ネコに代わる存在で、性格的にもほとんど変幻ネコとおなじだが、その超越感はただカッパ種族のもつ特殊能力から由来しているだけのようだ。とはいえこのカッパ族は悲惨な歴史を生き抜いた種族であって、その経緯は『カッパの歴史』という漫画で記された年代記に遺されている。この経緯は、長編『はたらくカッパ』の挿話として「タコブネ」船長カッパドリルによって主人公アンヌに語られる。
●ハヒフヘホ
[変幻ネコ]青林堂ガロ時代(1990まで)の作品を通じて1人称キャラとなる。ときに傍観者、ときにサブキャラとして、あるいは一定の種族として描かれもする。ひとつ目で背中に数個の渦巻文様があり、まさにネコの形態でちいさくうずくまることもあれば、人型に変じて少年のような出臍を晒したりもする。性格はまさにネコ的きまぐれが基本だが、いくつかの厳しい時代を堪え忍んできた老練な経験者でもあり、その達観した様子は周囲からも自然と一目置かれる(『ケキャール社顛末記』の挿話より)。その点では、「怪人うさぎ」よりも数段、超越者然としており、実際さまざまな超能力を秘めていることが『ケキャール社顛末記』の主人公によって明かされる。少年のようでもあり老いた実業家のようでもある「変幻ネコ」は自在に夢の世界を彷徨する力を得た極めて呪術的・魔術的な存在である。この1人称は後に『ケキャール社顛末記』の主役となり現在の「ネコカッパ」に通ずるが、ネコカッパの方がずいぶんと漫画キャラとしてあっさりした存在になっている。逆柱世界を逍遙する愉悦に恵まれる読者は、このネコの不思議なレゾンデートルに呼応し投影しうる要素を持っていることは確かだろう。
●マミムメモ
●ヤユヨ