第2回 第2歌 I〜V

全部で第1、2、3歌です。以下は第2歌I〜Vです。

I
ヘルメスの学問に精進せず、欲深い邪念にとらわれては、
言説の調子にふりまわされて過誤を犯す、輩のなんと累々たることか。
水銀やら金やらの、俗なる呼び名をうのみにしたまま、
作業に就いてしまう、そうした過失が常なのである。
また、卑俗の黄金をもちいて穏やかな火にくぐらせば、ついには
捕らえがたきあの銀を固着できる、かれらはそう思いこんでいる。 
II
だが、かれらが精神の眼を啓い秘められた、著者らの真意を
解することができたならば、卑俗の金と銀が普遍の炎を欠いていることを
まざまざとと眼にしたであろう。それこそが、ほんとうに事物に変化を
もたらすものであるのに。この動因、すなわち精霊は、炉に入れられて
激しい炎に晒されると飛び去ってしまうのだ。こうして金属というものは、
その鉱脈から切り出されて精霊を抜かれてしまうと、死んで動かない
ただの骸と成り果てる。
III
ヘルメスが言及したのは、こんなものではない。違う水銀、異なる金である。
湿潤で暖かい水銀は、火のなかにも絶えず、普遍に存するものである。
その金とは、火そのもの、命そのものである。
卑俗の金銀、死に切って正体も無い骸と、生命欠くことのなき我らの
物質の精霊とは、かく容易にも識別されるものである。
IV
嗚呼、すばらしき哲学の水銀よ! そなたの内には金と銀がともに在る。
そのどちらもが、事物をそれとなさしめるものから引き出されるがために。
メルクリウス、それは太陽でありかつ月でもあり。ただひとつの三重の物質。
そして三のうちに存する唯一の物質。嗚呼、なんと愕くべきもの哉!
水銀と硫黄と塩は、三物質がただひとつの物質に結実する姿を、私に見せるのだ。
V
とはいえ一体、あの金をも造りうる水銀は何処に在るのか。塩と硫黄に溶け込み
根源的湿性となって、金属種にいのちを与える原種は何処に。
あまりにも堅固にとざされているために、精励刻苦のわざが手を貸さねば、
自然それ自身ですらこれを抽き出すことは能わない。

第2歌はこのあとVIIIまで続きます。

[2009 2/6 追加] 残りの6,7,8です

VI
だが、斯術のなにを為すものぞ。ひたむきな自然のたくみな補佐役たるもの、
それは蒸気の炎をくぐらせて、牢獄にいたる途を浄化する。
絶えざる穏やかな熱よりほかに、よりよき案内者も確実な手段もなく
それによってのみ、我らが水銀を桎梏より放ちうるのである。

VII
左様、左様。屈することなき悟性もつ汝、もとめるべきは唯この水銀である!
なんとなればこの中にのみ、汝は賢者らが必要とした全てを
見出すことが出来るゆえに。その中では、月ならびに太陽の、
因り来る力が結合しており、これが結合するには、卑俗の金も銀も必要なく、
そして銀と金の真実の、種子をつくりあげるのである。

VIII
だがいかなる種子もまた、あるがままでは詮無きまま、
腐敗し、そして黒化せねばならぬ。生成には腐敗が先立つもの、
自然のあらゆる変転はこれに違うことはなく、また我らがこれを模倣せんと
するならば、白化に黒化を先行させねばならない。さもなくば、
無用の廃物をうむだけである。