第3回(最終回)第3歌 I 〜X

I
嗚呼、汝。術によりて金を造らんとする者よ。汝らはいつも
焼けた炭の炎にまかれつつ、際限のない策を弄しては、
あれやこれやのまぜものを 固めたり、溶かしたりしている。
あるときは完全に融解させ、またあるときには端々を凝固させ、
灰まみれの蛾のように 炉のまわりを行きつ戻りつしながら
昼夜を過ごすは、何故のことなりや。

II
今すぐ止めよ、みずからを無駄に疲弊さすことを。
おそれるべきは、狂気の望みが思索のいっさいを煙にすること。汝の作業には
ただ無駄な汗かきあるのみで、それは汝の荒れた隠棲の庵にながれる憂鬱な刻を、
汝の表情に刻みつけよう。斯くの如き獰猛な火炎なぞ、なに有益なことあろう。
賢者らはヘルメスの技を施すに、熱せられた炭も、火のついた薪も使いはしない。

III
地中ふかく自然の営む火、これぞ術の用いるべきものである。そしてそれこそ
術が自然を模倣する仕儀となる。煙霧の火、それはしかしながら軽やかでなく
焼き尽くすことなく育む火。人為にてしつらえられし自然の火。乾きつつも
雨をもたらし、湿りつつも乾かす火。物質を洗いつつも手を濡らすことのない
火を消す水である。

IV
自然の模倣をめざす術がもちいるべき火とは、かようなものであり、かように
一方は他方の足らぬを補わねばならぬ。自然が開始したことを人為が締めくくり
自然が清めきれぬものはただ人為のみが浄化しうる。術は精緻であり自然は明快である。
ゆえに一方が前途を一掃すれば、他方はすなわち歩みを留める。

V
種類を異にする多くの物質、容器や蒸留器にあってそれらは、
如何なる役に立つというのか。火とおなじように、我らの求めるものが
単一種であれば。左様、それは唯一のもの、それはどこにでもあり、
富める者と同様に貧しき者をそれを持ちうる。誰にも知られず、
しかも何者の眼前にも、それは存する。卑しき無学の者にすら
泥土のようにさげすまれ、あまりに安く売り払われる。
されども、その真の価値を知る賢者には貴重で尊いものである。

VI
無学なる俗衆の歯牙にもかけぬこの物質こそ、碩学らが慎重に求めるところである。
なんとなれば、これには求めるところのすべてが存するゆえに。この内にこそ、
死せる卑俗のそれでない、太陽と月がともども休らう。この内にこそ、
火は存し金属が生命を得る。燃えさかる水、定着せし地を与えるのはこの物質である。
ただしき智恵を賦与されたる精神へと、欠くべからざる一切を与えるのはまさに
この物質である。

VII
賢者はただひとつの化合物を充分とすることに思いを致さず、愚かしき化学の徒たる
汝は、幾つもの生成物を寄せ集めるのに拘らう。賢者たるもの、容器はただにひとつだけ
穏やかな太陽の熱にて煮沸し、ただにひとつの蒸気をばゆるやかに凝縮させるというのに
汝らは千もの異種の成分をごたまぜにする。神は無から万物を創りたもうたに、
汝らはすべてを無に帰してしまう。 

VIII
やわらかいゴムではない。かたい糞便などでもない。血液でも精液でもない。
緑の葡萄、薬草の精髄、硝酸、腐食性の塩、ローマの硫酸、乾燥した滑石、
不浄なアンチモンではない。硫黄でも水銀でもない。もちろん卑俗の金属種ではない。
それを可能にする術師が、我らの偉大なる作業を執り行うのは。

IX
かようなまぜものが何の役にたとうか。我らが学問は、まったき秘奥を
ただひとつの核心に封じているというのに。それについてはおそらく、
このうえなく充分、すでに汝に説いてしまった。
この核心がふくむふたつの物質はまず、ただ金と銀の原動力にすぎないが
我々が、能くそれらの重量をひとしくしうる限りに於いて、ついには、
金と銀たりうる活力となる。

X
左様、これらの物質はその重量をひとしくすれば、現実の金と銀を造り出す。
揮発性のものが黄金の硫黄として固着する。
嗚呼、燦然たる硫黄よ! 嗚呼、真実活きたる黄金よ!
太陽のもつあらゆる驚異と、あらゆる美徳ゆえに、私はそなたを敬慕する。
そなたの硫黄は至宝、そして術における真実のいしずえなのだ。
それこそが、自然はただ黄金として結実さすところを、エリクサへとはぐくむのだ。

ラッセラーム『闇よりおのずからほとばしる光』は以上でございます。