グレッグ・イーガン『万物理論』

正月ってのは、自分の意志に関係なくいろんなところに付き合わされたりすることが多く、『万物理論』を手に取ったのも、出先で空いてしまったマを埋める、なんでもいいから活字が欲しかっただけのことだった。あんまりSFの良い読者というわけでもないが、せっかく買って読むなら適度な厚さがあって没頭できそうなのがいい、なんて思いながら、結構タイトルがかっこよさげなだけで珍しく古本・古書でなく現行品を買い、昼飯を食べながら読み始めるとイキナリ、死者を復活させての事情聴取、意図的なウイルスの流行と経済問題、自発的自閉症者の理論……と、現代の価値観を突き崩す(それでいて極めて現代的な?)おそるべき未来予想のオンパレード、のっけから「人間とは何か」がボロボロにぶっ壊されていく……。まあ、もう2、3年前のSFベストセラーだし、いろんなところでいろんなふうに語られてるから、ここで改めてネタバレ風のあらすじ紹介をしても仕方ないので備忘録的なところに留めよう。
Amazon該当ページ(レヴューもたくさん、評価もいろいろ)
東京創元社 訳者によるあとがき(全体の1/5くらい)
まあ、検査すれぁそれなりに出てくっか。厳しい意見も多いがエンタテイメントを求めすぎての例多し
物理学のことばが編まれて進む文体や物語は、いつもハードなSFを読んでるわけじゃない自分にはノッてくるまで時間がかかったが、ワケが分かんなくなっちゃうほどのものでもない。それより、読みながら「こんな硬質な文章で、そんなにベストセラーになるの?どんなやつらが読んでんだ?」なんて、けっこう思わされたが、世の中捨てたもんじゃないというか、たくさんの人がこういうのをしっかり読んで自分のお気に入りとかを語ってるので、何がどうと言うこともなく、嬉しくなってしまった。世に目立つ、わかりやすい離乳食みたいなホンばかり読まれてるワケじゃないんだなあーと。
……当、錬金術文書サイト的には(苦笑)先にバルザック『絶対の探求』を挙げたとこから連想が飛んでの御紹介、ということなんだけれども、「万物理論」が発見されて果たして世の中がドウなるのか、と。なんと、この『万物理論』では人類の手が「絶対」に届いてしまうわけだが、ここに描かれるラストは、ちょっとスゴイ&ウマイ。こういうのも、錬金術的、といっていいと思う。ただ、作者イーガンは作中、神秘主義とかオカルトとかユングとかは徹底的に叩いてる……まあコレだけ科学の発達した未来だとソンナ連中は愚の骨頂になっちゃうで……んで、ソッチの心酔の方には向かないかも。逆に「オカルトの辿る未来」としても読める。かといって、数学・物理のひとが読んでもまあアレっちゃあアレだろうけど。
ともかくSFとして、ものすごく楽しめる一気に読める1冊、錬金術的にも(?)大推奨。(……汎性の恋愛は個人的にはちょっとキツかった。ん〜ヘルマフロディトってなあ(ブツブツ)
ワインバーグ『究極理論への夢〜自然界の最終法則を求めて〜』
サイード『文化と帝国主義』(1)(2)
エメ・セゼール『帰郷ノート/植民地主義論』